ecoだけ ブース

店頭に商品が並ぶとき、最も先に消費者の視界に飛び込んでくるのは商品の“パッケージ”です。近年、ECチャネルが存在感を増している一方で、リアル店舗には依然として大きな影響力があります。特に食品・化粧品・日用品においては、店頭での視認性や手に取られやすさが売上を左右することも珍しくありません。
そして、その中心にあるのが「パッケージ」という存在です。
「パッケージ=保護材」という理解はもはや不十分で、実際にはマーケティング、情報伝達、UX、物流、店舗運営、環境、デジタル連携など、複数の領域にまたがる多機能な設計物になっています。本稿では、店頭におけるパッケージの役割を多角的に整理し、現代のパッケージ開発に求められている視点を掘り下げていきます。
店頭に並んでいる商品は、常に競合と並列的に比較される環境に置かれています。そのため、消費者の視認性を高め、第一印象を強く印象づけることが非常に重要です。ロゴやカラー、質感、形状といった要素は、競合との距離(棚割)によってさらに際立ち、ブランドを象徴するアイデンティティとして機能します。
また、パッケージは「シリーズとしての統一感」を演出することができます。同一ブランド内で構成された一貫性のあるデザインは、棚段全体での視覚的支配力を高め、結果として購買率の向上につながります。消費者にとっては「このブランドは選びやすい」「安心できる」という心理的効果が働き、手に取る確率が高まったりします。
さらに近年では、SNS時代ならではの「映えるデザイン」が話題性を生み、商品認知の拡散にまで寄与しています。パッケージそのものがマーケティングコンテンツ化し、オンライン・オフライン双方をつなぐ接点にもなり得ます。
パッケージは、法律や規制に基づいた情報表示の役割も担っています。食品表示法や薬機法、リサイクル関連の表示など、企業として公開しなければならない情報は多い。それらを適切にレイアウトし、かつ読みやすく配置することは、企業の信頼性に直結します。
また、消費者にとって必要な情報は法律で義務づけられた項目だけではありません。原材料の透明性、製造工程の安全性、環境配慮の取り組みなど、企業が提供できる価値の“裏付け”としての情報も増えています。近年では、QRコードなどのデジタル連携によって、より詳細で正確な情報を補完する動きも加速しています。
情報をただ羅列するのではなく、「必要な情報を、必要な順序で、適切な見え方に整理する」。この情報設計の巧拙は、店頭における商品の選ばれやすさに直結していきます。
消費者が商品を手に取ってから購入に至るまで、そして購入後に使用するまでのすべての体験にパッケージは関与しています。
例えば以下のようなUX要素があります。
・手に取りやすい形状
・持ちやすさ/重さのバランス
・開封しやすさ(オープナー、ミシン目、ジッパー)
・使い切りやすさ・再封可能性
・中身が見える透明パーツ
・手触り・質感・表面加工による感性的価値
これらのUX要素は、商品そのものの評価にも影響します。「使いにくい商品」は、内容物がどんなに優れていても顧客満足度が下がり、一方、「開けやすい」「触って気持ちいい」「生活シーンに馴染む」などのポジティブな体験が積み重なると、リピートやブランドロイヤルティの向上につながっていきます。
UXの設計は、パッケージを“消耗品”としてではなく“体験価値を創出するインタフェース”として捉える発想が求められています。
パッケージは、商品を壊さず、品質を維持しながら流通させるための物理的保護の役割を果たします。輸送中の衝撃、温湿度、紫外線、酸素、衛生など、商品を取り巻く環境はさまざま。その変動に耐える設計は、食品・化粧品・医薬品などにおいて特に重要になります。
また、物流においては以下のような要素も軽視できません。
・積載効率
・ケース単位での統一性
・店頭補充のしやすさ
・バーコードの位置/読み取り精度
・梱包の簡易性
・棚持ち(陳列中の形崩れ防止)
これらを最適化することで、店舗側の作業負担を減らし、販売機会のロスを防ぎます。店頭の限られたスペースを効率よく使い、補充や在庫管理をしやすくすることは、販売現場にとって大きなメリットになります。
パッケージ開発では、環境配慮の視点が強く求められています。従来の“脱プラスチック”一辺倒ではなく、素材のライフサイクル、リサイクル可能性、CO₂排出量など総合的な評価軸で比較する必要があります。
実務では以下のような取り組みが増えています。
・紙・バイオマスプラスチック・再生材の活用
・パッケージの軽量化/薄肉化
・単一素材化によるリサイクル効率向上
・印刷インキや加工方法の環境配慮
・サプライチェーン全体を見据えたLCA最適化
さらに、パッケージ自体が「企業の環境姿勢を語る媒体」としての役割を果たすようになっています。
「何を使ったか」だけではなく、「なぜその素材なのか」「廃棄まで責任を持つ姿勢があるのか」を伝えるストーリーテリングも重要になります。
環境対応はコスト負担になる側面もありますが、適切に設計すればブランド価値向上と両立できる領域でもあります。
近年、パッケージはデジタルとの接点としての役割を強化しています。
・QRコードによる情報拡張
・ECサイトやSNSへの誘導
・使用方法動画・レビューへのリンク
・デジタル製品パスポート(DPP)対応
・製品のトレーサビリティ確保
特にEUを中心に進むDPPは、将来的に多くのカテゴリで義務化される可能性が高い。パッケージはオンライン情報の“入口”として、店頭とECの境界を曖昧にするハブとなりつつあります。
デジタル連携は、消費者だけでなく、サプライチェーン全体に透明性をもたらすため、今後ますます重要性が高まる領域です。
以上のように、パッケージは単なる外装ではなく、以下の複数の機能を同時に担う“複合的システム”です。
・マーケティング(売れる仕組み)
・情報伝達(説明責任)
・UX(体験価値)
・物流・店舗オペレーション(効率化)
・環境対応(社会的責任)
・デジタル連携(拡張性)
これらは単体で成り立つものではなく、相互に関連し合いながら、最終的な購買行動に影響を与えています。パッケージ開発では、この“多機能性”を理解したうえで、どの機能に重きを置くかを判断し、全体として最適なバランスを取る必要があります。
まとめ:パッケージは「売場と社会をつなぐ媒介」へ
店頭におけるパッケージは、商品を守る箱でも、単なるデザイン物でもない。その本質は、人と商品、商品と環境、そして企業と社会をつなぐ「媒介」です。
消費者行動の変化、環境規制の強化、デジタル化の進展など、外部環境が大きく変化する中で、パッケージに求められる役割はさらに増えています。
見た目だけではなく、機能性と体験価値、そして企業の姿勢までも伝える“設計物”として、今後ますます重要性は高まってくるでしょう。
パッケージとは、単なる外装ではなく、「売れる理由をつくる戦略ツール」です。
その可能性を正しく理解し、企業戦略の一部として位置づけることが、これからのブランド価値創造には欠かせない視点になります。
☑ 店頭におけるパッケージの役割 — 多角的リスト
【1. マーケティング・ブランディング機能】
□ ブランドの象徴性:ロゴ・カラー・世界観の提示、競合との差別化。
□ 第一印象の形成:視認距離・棚の高さ・カテゴリ内での見え方。
□ 購買行動のトリガー:アイキャッチ、注目率向上、棚前停留時間の延長。
□ シリーズ統一感の演出:ラインナップとしての整合性・棚割での視覚的支配力。
□ インフルエンス効果:SNS映え、写真撮影されるパッケージとしての機能。
【2. 情報伝達・説明責任】
□ 商品特性の明示(成分、容量、用途、メリット、使い方)
□ 価値提案の伝達(他社比較・ベネフィット・独自技術)
□ 法律・規制対応(薬機法表示、食品表示法、PL法、リサイクルマーク等)
□ 透明性の確保(原産地、トレーサビリティ、環境配慮性など)
【3. 消費者心理・UX(体験価値)
□ 安心・信頼感の醸成:清潔感、品質の高さ、透明パーツによる中身の視認性。
□ 触覚体験:紙質・エンボス・マットPPなど触れることで生まれる高級感。
□ 開封体験(アンボクシング):開けやすさ・ワクワク感・ギミック性。
□ 使いやすさ:持ちやすさ、取り出しやすさ、再封性。
【4. ロジスティクス・保護機能】
□ 輸送時の破損防止:緩衝性、剛性、密閉性。
□ 保存性:湿気・光・酸素・衛生などの商品劣化の抑止。
□ 棚持ち(シェルフライフ)向上:陳列中の見栄え維持、変形防止。
□ 陳列効率:棚割最適化、フェイス数確保、積みやすさ・並べやすさ。
【5. オペレーション・店舗運営側のメリット】
□ 在庫管理しやすさ:バーコードの位置、SKU区別しやすさ。
□ 省スペース性:棚効率向上、物流倉庫での保管効率。
□ 補充しやすさ:形状統一、箱の強度、POP一体型パッケージなど。
【6. サステナビリティ(環境対応)】
□ 素材の選択肢:紙・バイオマスプラ・再生材・薄肉化など。
□ LCA(ライフサイクルアセスメント)最適化。
□ 回収・リサイクルしやすさ:単一素材化、分別のしやすさ、剥がれやすいラベル。
□ 環境配慮の”見える化”:環境アイコン、ストーリーテリング。
【7. 顧客セグメント別アプローチ】
□ 初心者向け:分かりやすい説明・ピクトグラム
□ 高級ライン:質感・重量感・ミニマルデザイン
□ シニア層:文字の視認性、開封のしやすさ
□ 若年層:SNS映え・トレンド配色・ファン心理の喚起
【8. デジタル連携(D2C・OMO・DPP)】
□ QRコードによる情報拡張(使い方動画、レビュー、レシピ)
□ DPP(デジタル製品パスポート)対応:EU規制を見据えたデータ連携。
□ EC販売との統合:ECと店頭でのパッケージ運用の一体化。
【9. バリューエンジニアリング(VE/VA)】
□ コスト削減と価値維持の両立
□ 資材統一化・標準化による効率化
□ 製造ラインへの適合性向上(充填しやすさ、貼りやすさ)
【10. 安全性・品質保証】
□ 改ざん防止(タンパーエビデント)
□ 衛生保持(食品・化粧品の必須仕様)
□ 誤飲防止・誤用防止表示
※上記リストは一般的に考えられる要素のリストです。上記の他、各業界ごとに決められた規制や表示義務などがありますので、注意しながら進めてください