ecoだけ ブース
こんにちは。
「エコロジーとエコノミーをビジネス化する」を目標に活動している”ecoだけマーケター“たちが、最近気になる環境やDXにまつわる話題を短く紹介するエコなブログです。「○○したいけど、○○できない」とお悩みの、何かとお疲れ様の皆様に向けて、小さな取り組みなどを紹介します。コーヒーブレイクや休憩の合間にお読みください。

中東情勢の不安定化を背景に、原油やナフサを起点とした原料供給不安が、食品・菓子・化粧品・文房具・電化製品など、さまざまな業界の包装資材に影響を及ぼし始めています。
フィルム、トレー、容器、印刷インキ、溶剤、接着剤、緩衝材、物流燃料。これらはすべて、商品をつくり、包み、運び、売場に並べるために欠かせないものです。ひとつの原料や資材が不足するだけで、これまで当たり前だったパッケージの色、素材、形状、印刷仕様が維持できなくなる可能性があります。
実際に、主要な菓子・食品でパッケージの白黒化、無地・色違い包材での配送、透明無地袋での販売、デザインや色、材質、包装形態の変更可能性などの記事が紹介されています。これは単なる“過剰報道”では片づけられない、現場レベルの変化です。
しかし、ここで考えるべきことは、単に「包材が足りないから、別の包材に変える」という話ではありません。
パッケージを変えるということは、商品を包む資材を変えるだけではなく、顧客の記憶の中にあるブランドの姿を変えるということでもあります。
私たちは商品を選ぶとき、必ずしも文字を一つひとつ読んでいるわけではありません。むしろ、売場では一瞬で判断しています。赤い袋、黄色い箱、白色のボトル、特徴的なキャラクター、いつものロゴ、手に取ったときの質感。そうした視覚的・感覚的な記号をもとに、「あの商品だ」と認識しています。
つまり、パッケージは単なる包装ではありません。
それは、店頭で見つけてもらうための記号であり、過去の購買体験を呼び起こす記憶装置です。
特に、食品や菓子のように売場での瞬間的な判断が重要な商品では、色の役割は非常に大きくなります。味の違いを色で覚えている人も多く、いつもの色が変わるだけで、消費者は商品を見つけにくくなります。さらに、キャラクターやイラストがなくなれば、親しみやすさや楽しさも薄れる可能性があります。
化粧品では、さらに慎重な判断が必要です。容器の色、形、透明感、手触り、キャップの質感、外箱の紙質は、ブランドイメージそのものです。たとえば、長年親しまれてきた容器色を大きく変えたことで、既存顧客が店頭で商品を見つけられなくなり、売上に影響した事例もあります。これは、商品そのものの品質が落ちたからではありません。顧客の脳内にある「いつもの商品」の記号が変わってしまったからです。
このように考えると、包材不足によるパッケージ変更は、非常に高度な経営判断です。調達部門だけで決めることでも、製造部門だけで決めることでもありません。マーケティング、営業、品質保証、デザイン、法務、経営が一体となって考える必要があります。
一方で、パッケージの簡素化や白黒化が、必ずしもマイナスになるとは限りません。
短期的には、むしろ大きな話題性を生む可能性があります。普段は色鮮やかな商品が並ぶ売場で、白黒のパッケージは異質です。見慣れないからこそ目立つ。ニュースやSNSで話題になれば、「一度買ってみよう」という行動も起こりやすくなります。
また、通常パッケージが一時的に見られなくなることで、前後の保存需要が生まれる可能性もあります。従来のパッケージを手元に残しておきたい、限定的な仕様を記念に買いたいという心理が働くからです。
さらに、資材不足という制約を逆手に取り、体験価値に変えることもできます。透明無地袋で販売し、来店客がシールに絵やメッセージを書いて貼る参加型の企画があったりするそうです。これは、包材不足を単なるマイナスとして扱うのではなく、「今しかできない体験」に変えた例です。
つまり、非常時のパッケージ変更には、短期的な注目獲得、話題化、共感形成という可能性があります。
ただし、問題は中長期にあります。
一度話題になったとしても、顧客全員が知っている可能性は高くなく、その後に問われるのはリピート率です。
話題性で一度買った人が、もう一度買うのか。
既存顧客が、店頭で迷わず見つけられるのか。
新しいパッケージを見ても、いつもの味や品質を思い出せるのか。
そこが分水嶺になります。
白黒化や簡素化によって、商品が目立つことはあります。しかし、食欲をそそる色、楽しさ、親しみやすさ、高級感、安心感が失われれば、積極的に手に取る理由が弱くなる可能性もあります。特に、菓子や食品では、パッケージの色や写真が「おいしそう」という感情をつくっています。そこを削りすぎると、売場での購買衝動が弱まります。
化粧品の場合は、さらに感情的な影響が大きくなります。化粧品は、効果効能だけでなく、自分らしさ、気分、憧れ、安心感を買う商品でもあります。容器や外箱の印象が変わると、「前と違う」「品質が変わったのではないか」「別の商品になったのではないか」と感じられることがあります。だからこそ、代替容器や簡易包装に切り替える場合でも、ブランドを識別できる最低限の要素は守らなければなりません。
ここで重要になるのが、変えてよいものと、変えてはいけないものを事前に決めておくことです。
たとえば、色数は減らしてもよい。
しかし、ブランドロゴの位置は変えない。
キャラクターは簡略化しても、シルエットは残す。
容器素材は変えても、形状は維持する。
外箱はなくしても、ラベルの基調デザインは残す。
写真は省いても、味や香りを識別する文字情報は大きくする。
このように、ブランド記憶を支える要素を分解しておくことで、非常時でも“見つけてもらえる包装”を維持できます。
食品業界では、まず品質保持が最優先です。フィルムやトレーを変更する場合、バリア性、密封性、耐油性、耐水性、賞味期限への影響を確認する必要があります。そのうえで、色数削減、無地包材、ラベル後貼り、共通トレーの活用などを検討するべきです。ただし、味や種類の識別性は落としてはいけません。色が使えない場合は、文字サイズ、アイコン、番号、帯の位置などで見分けやすくする工夫が必要です。
菓子業界では、楽しさと購買衝動をどう維持するかがポイントです。菓子パッケージは、店頭では商品の顔であり、食べている時は商品の一部であり、最後は廃棄物にもなります。環境配慮型パッケージでも、機能性とエコのバランスを取ることが重要です。
その意味で、菓子包装の簡素化は、保護性だけでなく「楽しさをどう残すか」まで含めて考える必要があります。色数を減らすなら、コピーや形状で楽しさを補う。トレーを薄くするなら、強度を保つ構造を工夫する。無地包材を使うなら、シールや手書き企画などで参加性を加える。制約を体験に変える発想が有効です。
化粧品業界では、容器と外装の見直しが大きなテーマになります。ポンプ、キャップ、ボトル、チューブ、ラベル、外箱、シュリンク、緩衝材など、資材の種類が多く、供給不安の影響を受けやすい分野です。今後は、汎用容器でもブランドらしさを表現できる設計、ラベル差し替えで展開できるシリーズ設計、詰め替え・リフィル対応、外箱レス、モノマテリアル化、再生材・バイオマス材の活用などが重要になります。ただし、ブランドカラーや容器形状を大きく変える場合は、既存顧客が認識できるかを必ず検証すべきです。
文房具業界では、透明プラスチック包装から紙包装への切り替えが進む可能性があります。しかし、透明包装をやめると、商品が見えにくくなります。ペン先、色、太さ、サイズ、使い方などをどのように伝えるかが課題になります。写真、イラスト、QRコード、試し書き見本、統一された台紙デザインなどを活用し、簡素化しても選びやすいパッケージにする必要があります。
電化製品業界では、緩衝材や外箱の変更が中心になります。発泡材やプラスチック袋を紙系緩衝材に変える、箱サイズを小さくする、部品ごとの包装を簡素化する、といった対応が考えられます。ただし、製品破損が増えれば、返品・再配送・廃棄が増え、環境負荷もコストも高まります。包装を減らすことと、製品を守ることは、常にセットで考える必要があります。
さらに、環境配慮の観点も欠かせません。環境配慮型パッケージについて、Reduce、Reuse、Recycleの3Rを考慮しながらも、品質保護性や利便性を損なうと食品ロスや顧客満足度低下につながるとよいですね。
これは、供給不安対策にもそのまま当てはまります。包材を減らすことは大切ですが、商品を守れなければ意味がありません。紙に変えることも選択肢ですが、リサイクルに乗らない特殊紙であれば、循環性が高いとは言い切れません。再生材やバイオマス材も、供給安定性、品質、コスト、表示、消費者理解まで含めて検討する必要があります。
では、企業は今、何を準備すべきでしょうか。
第一に、重要包材のリスク棚卸しです。
どの包材が石油由来原料に依存しているのか。どの包材が一社調達なのか。どの資材が欠けると出荷できなくなるのかを整理します。フィルム、トレー、容器、ラベル、インキ、接着剤、外箱、緩衝材を一覧化し、代替可否を確認する必要があります。
第二に、代替仕様の準備です。
通常版、簡易版、白黒版、無地包材+ラベル版、外箱レス版など、複数の選択肢を事前に持つことが重要です。これは、災害時のBCPと同じです。包装にもBCPが必要です。
第三に、ブランド記憶の棚卸しです。
顧客は何を見て自社商品だと認識しているのか。色なのか、形なのか、ロゴなのか、キャラクターなのか、写真なのか。そこを把握せずに簡素化すると、売場で見失われる商品になってしまいます。
第四に、価格維持との関係を整理することです。
包装仕様を見直すことで、どの程度コスト上昇を吸収できるのか。値上げを避けられるのか。値上げ幅を抑えられるのか。これを経営判断として見える化する必要があります。
第五に、表示・品質・法令確認フローの整備です。
代替包材でも、食品表示、成分表示、法定表示、注意表示、リサイクル表示、JANコードなどが正しく表示されているかを確認しなければなりません。急場の対応ほど、確認漏れが起きやすくなります。
第六に、小売・営業・ECへの告知フローです。
包装が変われば、店頭POP、EC画像、カタログ、営業資料、受注システム上の商品画像なども影響を受けます。包装変更は、製造現場だけで完結する問題ではありません。
第七に、消費者への説明文を準備することです。
包装変更は、黙って行うと不安や誤解を生みます。「中身の品質に変更はありません」「安定供給のため、一時的に包装仕様を変更しています」「資源を有効に使いながら商品をお届けするための対応です」といった説明を、店頭、EC、同梱物、SNS、Webサイトで一貫して発信する必要があります。
包装は、商品を包むものではありません。
商品を守るものです。
商品を見つけてもらうものです。
ブランドを記憶してもらうものです。
そして、事業を止めないためのインフラです。
中東情勢による原料供給不安は、遠い国のニュースではありません。
それは、フィルムに、インキに、容器に、緩衝材に、そして店頭の見え方に現れます。
これからの企業に求められるのは、単なる代替資材探しではありません。
調達できる包装。
品質を守れる包装。
環境に配慮した包装。
そして、顧客が見失わない包装。
この4つを同時に満たす設計です。
包材不足の時代に、本当に怖いのは、包装が変わることではありません。
包装が変わった結果、顧客の記憶から商品が消えてしまうことです。
だからこそ今、企業は考えるべきです。
何を変えるのか。
何を守るのか。
どう伝えるのか。
そして、どうすれば商品を止めず、ブランド記憶も止めずにいられるのか。
原料供給不安の時代に必要なのは、
“止めない包装”と“失わないブランド記憶”の設計です。