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【ecoマ-DX】コラム018 「いい感じに」で、デザインはできるのか

DX

――バイブデザインの広がりが、突きつけるもの

こんにちは。
「エコロジーとエコノミーをビジネス化する」を目標に活動している”ecoだけマーケター“たちが、最近気になる環境やDXにまつわる話題を短く紹介するエコなブログです。「○○したいけど、○○できない」とお悩みの、何かとお疲れ様の皆様に向けて、小さな取り組みなどを紹介します。コーヒーブレイクや休憩の合間にお読みください。

「もっと親しみやすくしてください」

「高級感は欲しいけれど、近寄りがたい印象にはしたくありません」

「若い人向けですが、子どもっぽくならないようにしてください」

これまで、このような曖昧な要望を具体的な形にするには、デザイナーとの対話が必要でした。依頼者自身も言葉にできていない意図をくみ取り、色や書体、写真、余白、情報の順序へ置き換えていく。それが、デザイナーの専門性の一つだったからです。

ところが、生成AIの進化によって、この関係が変わり始めています。

利用者が細かなレイアウトや色を指定しなくても、「落ち着いているけれど新しさを感じる」「信頼感があり、専門的すぎない」といった雰囲気を伝えれば、AIが複数のデザイン案を示してくれます。完成形を最初から正確に説明するのではなく、出てきた案を見ながら、「もう少し明るく」「ここは違う」「この雰囲気は残したい」とやり取りを重ね、少しずつ形にしていくのです。

こうした制作方法は、「バイブデザイン」と呼ばれ始めています。

まだ意味が完全に定まった言葉ではありませんが、ここでは、専門的な操作や詳細な設計図から始めるのではなく、目的、印象、好み、違和感、参考画像などをAIに伝え、出力を見ながら方向を調整していくデザイン手法として考えます。

デザインの入口が、専門知識から「感覚」に変わります

たとえば、新しいカフェの予約サイトをつくるとします。

従来であれば、掲載する情報を整理し、画面の構成を考え、書体や色を選び、ボタンの位置や大きさを調整しながら形にしていきます。制作を依頼する側も、要望書や参考資料を用意し、デザイナーに意図を説明しなければなりません。

バイブデザインでは、まず「仕事帰りに一人でも入りやすい、静かで温かみのあるカフェ」「木の質感と夕方の光を感じる」「予約は迷わず完了できる」といったイメージをAIに伝えます。

するとAIは、画面の構成や配色、写真の扱い、ボタン、文章まで含めた案を短時間で生成します。気に入らなければ、「少し暗すぎます」「もっと気軽な印象に」「予約ボタンを目立たせて」と伝え、つくり直してもらいます。

Figmaなどのデザインツールにも、言葉による指示から最初の画面案をつくり、出力を見ながら修正を重ねる機能が組み込まれています。同社も、最初から完璧な指示を書くことより、実際の出力を確認しながら調整する反復的な進め方が重要だと説明しています。

利用者にとって、これは大きな解放です。

デザインソフトを操作できなくても、自分の感覚を起点に制作へ参加できます。頭の中にあるものをうまく説明できなくても、AIが示した案を見れば、「これは違う」「こちらの方が近い」と判断できます。

何もない状態から正解を言い当てる必要はありません。出てきたものに反応しながら、自分が求めていたものを見つけていけるのです。

しかし、「つくれること」と「デザインできること」は同じではありません

画面にそれらしいものが表示されたからといって、デザインが完成したとは限りません。

カフェの予約サイトであれば、雰囲気がよいだけでは不十分です。営業時間や場所がすぐに分かるか、予約方法で迷わないか、スマートフォンでも読みやすいか、文字と背景の色に十分な差があるかといった確認が必要です。

利用者は、完成度の高い画面を見ると「もう使えそうだ」と感じます。しかし、技術者やデザイナーが見ているのは、その背後にある構造です。

見た目は整っていても、ボタンを押した後の動きが考えられていないかもしれません。画面ごとに書体や余白のルールが揺れていることもあります。実在しない情報が文章に混ざったり、生成された写真の細部に不自然さが残ったりする可能性もあります。

印刷物であれば、さらに確認すべきことが増えます。

画面上では美しく見えても、実際に印刷すると文字が読みにくい、色が想定どおりに再現されない、画像の解像度が足りない、断裁位置に文字が近すぎるといった問題が起こり得ます。パッケージであれば、展開したときの位置関係、表示義務、素材、加工、強度、コストまで考えなければなりません。

AIは見た目の案をつくれても、その案が製造できるか、正しく伝わるか、使う人にとって安全かまでは、自動的に保証してくれません。

デザインとは、きれいなものをつくることだけではないからです。誰が、どのような場面で使い、何に迷い、どのような行動へ進むのかを考え、目的に合わせて情報と体験を設計することでもあります。

AIは候補を短時間で生成できます。しかし、その候補が目的に合っているかを判断するには、顧客、事業、ブランド、媒体、製造への理解が必要です。

バイブデザインによって、誰もがデザイン案をつくれるようにはなります。しかし、それだけで誰もがデザイナーになるわけではありません。

むしろ、案をつくる技術よりも、案の良し悪しを見分ける力が重要になります。

一瞬でつくられたデザインの前後には、多くの仕事が残ります

利用者から見えるのは、入力欄と、短時間で表示されるデザインです。

しかし、その一瞬はAIだけで成立しているわけではありません。

AIを開発するためには、大量のデータを収集し、学習させ、出力を評価し、不適切な内容を抑える仕組みを整える必要があります。サービスを動かし続けるためのサーバー、通信設備、電力、保守も欠かせません。

実際の制作現場では、AIが案を出す前後にも仕事があります。

何をつくるのかを決める人がいます。顧客の課題や商品の特徴を整理する人がいます。AIに与える資料や条件を準備し、出力された案から使えるものを選ぶ人がいます。ブランドに合わせて表現を整え、内容や権利、事実関係、製造条件を確認し、最終的に公開を承認する人も必要です。

つまり、作業がすべて消えたのではありません。

これまで人間が手を動かしていた場所から、AIに方向を伝え、出力を選び、検証し、責任を負う場所へと、仕事の重心が移っているのです。

AIが制作時間を短くするほど、確認の重要性が小さくなるわけではありません。大量の案を短時間でつくれるようになれば、それだけ選択や確認の回数が増える可能性もあります。

「制作が自動化された」というより、「制作工程の一部が見えなくなり、別の場所へ移動した」と考えた方が、実態に近いでしょう。

その変化は、すでに印刷会社の経営判断に表れています

公益社団法人日本印刷技術協会、JAGATによる印刷会社の経営状況と経営戦略に関する最新調査では、経営者の工程別意向として、DTPとデザインの縮小意向が過去最高となりました。DTPは18%強、デザインは48%弱に達しています。

記事はこちらです。公益社団法人日本印刷技術協会:「印刷マネジメントブック2026」 https://www.jagat.or.jp/archives/654611

DTPとは「デスクトップ・パブリッシング」の略で、パソコン上で文章や画像を配置し、印刷に適した紙面データをつくる工程です。チラシ、パンフレット、冊子などの文字組みやレイアウト、画像配置、印刷用データの作成が含まれます。

かつて印刷会社にとって、DTPとデザインは、印刷の前工程として自社で抱えることに意味がありました。原稿を受け取り、紙面をつくり、印刷し、納品する。この流れを一社で担うことが、受注の安定や品質管理につながっていたからです。

しかし現在は、発注元企業がテンプレートやオンラインツールを使って制作物を内製化できるようになりました。生成AIやバイブデザインが加われば、文章、画像、レイアウトの初期案まで社内で用意できます。

制作する人がいなくなったわけではありません。発注元企業の担当者が、AIを使って制作工程の一部を担うようになったのです。

印刷会社から見れば、これまで受注していた工程が顧客側へ移動していることになります。DTPやデザインの縮小意向は、単なる人員削減の問題ではなく、「その工程だけでは、今後も十分な対価を得にくい」という経営者の認識の表れだと考えられます。

とりわけ、デザインの縮小意向が48%弱に達していることは重く受け止める必要があります。約半数の経営者が、従来型のデザイン工程を現在の形のまま維持することに慎重になっているからです。

デザイン会社の倒産増加も、AIだけでは説明できません

デザイン業を取り巻く変化は、印刷会社の意向だけに表れているわけではありません。

東京商工リサーチによると、2026年上半期、1月から6月までのデザイン業の倒産は40件に達しました。前年同期から166.6%増え、約2.7倍となっています。2012年同期以来、14年ぶりの高い水準です。

記事はこちらです。株式会社東京商工リサーチ:AIの広がりも影響、「デザイン業」倒産が14年ぶり高水準 ~ 2026年上半期は40件に急増 ~ https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1203096_1527.html

この数字だけを見れば、「AIがデザイン会社を倒産させた」と考えたくなります。

しかし、実態はそれほど単純ではありません。

顧客企業が制作を内製化する動きに加え、雑誌など紙媒体の需要縮小、デジタル広告への移行、発注元企業の業績不振、取引先への依存など、以前から存在していた複数の問題が重なっています。東京商工リサーチも、生成AIの普及だけでなく、紙媒体からデジタルへの移行や、取引先業界の不振による影響を挙げています。

AIは唯一の原因ではありません。

むしろ、価格競争、下請け構造、特定顧客への依存、紙媒体需要の減少、提案力の不足といった既存の課題を、短期間で表面化させた加速要因と見るべきでしょう。

AIがなかったとしても、同じ問題はいつか現れていた可能性があります。ただしAIによって、発注元が「まず自分たちでつくってみる」ことが容易になり、その時期が早まったのです。

求められるものも変わりました。

以前は、「つくれる会社」であること自体に価値がありました。現在は、発注元企業も一定水準の制作物をつくれます。見た目だけなら、AIが短時間で複数案を提示してくれます。

その結果、「言われたものを、きれいにつくる」という価値だけでは、選ばれにくくなっています。

AIはデザインを奪うのではなく、価値の境界線を移します

バイブデザインによって最初に縮小するのは、デザインそのものではありません。

指示された内容をそのまま形にする作業、既存の表現を整える作業、複数の案をつくる作業など、成果物を生み出すまでの一部の工程です。

一方で、AIが簡単には代替できない仕事も残ります。

顧客が何に困っているのかを見つけること。依頼内容の背後にある経営課題を整理すること。誰に、どのような場面で選ばれたいのかを定めること。その企業らしさを言葉と形にし、社内外で一貫させること。そして、つくったものが実際の売上や採用、ブランド、顧客体験にどうつながったかを検証することです。

これらは、単に「デザインする」という言葉の中に入れられてきましたが、実際には観察、分析、編集、企画、意思決定支援、ブランド設計、事業理解を含んでいます。

AIによって制作工程が短くなればなるほど、その前にある「何をつくるべきか」と、その後にある「何を生み出したか」の価値が高まります。

デザイン会社や印刷会社が問われているのは、制作速度でAIに勝てるかどうかではありません。

制作の前後にある、顧客自身も気づいていない課題を発見し、選ばれる理由へ変えられるかどうかです。

「デザインする人」で終わるか、「選ばれる理由をつくる人」になるか

これからも、デザインをつくる技術は必要です。

AIが生成した案を評価し、調整し、媒体や製造条件に合わせて完成させるには、専門知識と経験が欠かせません。印刷物であれば、色、文字、画像、用紙、加工、製造、品質を理解している人が必要です。

しかし、その専門性を「手を動かして制作すること」だけで説明するのは難しくなります。

顧客は、制作物そのものだけを求めているわけではありません。

商品を選んでほしい。サービスの価値を理解してほしい。採用応募を増やしたい。営業担当者が説明しやすくしたい。ブランドへの信頼を高めたい。顧客が本当に実現したいのは、その先にある変化です。

だから、これからのデザイナーや印刷会社には、依頼されたものを完成させるだけでなく、「そもそも何をつくるべきか」「なぜ、それが必要なのか」「誰に、どのような理由で選ばれたいのか」を顧客と一緒に考える役割が求められます。

AIは、案をつくることができます。

しかし、どの課題を解くべきかを決め、企業が社会や顧客に提供する価値を定め、その結果に責任を持つのは人間です。

バイブデザインが広がるほど、「つくれること」の希少性は下がっていきます。

その一方で、無数の案の中から、その企業にとって意味のあるものを選び、顧客に選ばれる理由へ育てる力の価値は高まります。

問われているのは、AIを使うか、使わないかではありません。

デザインする人で終わるのか。

それとも、デザインを通じて、選ばれる理由をつくる人になるのか。

AIが一瞬で形を生み出す時代だからこそ、その違いが、これまで以上に企業の未来を分けるのだと思います。

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